So-net無料ブログ作成
前の10件 | -

俺の彼女は猫系女子 【第20章:勢いと触れる寸前◆岡部弘樹】 [恋愛小説]




綺羅と付き合い始めて、最初のデート。
 
「子供の頃はここによく遊びに来てたの」
 
綺羅はそう言って池沿いの遊歩道を俺と手を繋ぎながら歩く。
 
「私は騒がしい場所が苦手だったから、よくひとりでここに来てた」
 
「一緒に遊ぶ友達とかいなかったのか?」
 
「……人生で数える程度の友達しかいない私に遊び仲間がいるとでも?」
 
真顔で、はっきりと堂々と言う事ではない。
 
ここで遊ぶか、図書館で本を読むか。
 
ほとんど二択の寂しい子供時代を過ごしていたそうだ。
 
「最近も良く来るのか?」
 
「ううん。中学に入ったくらいからあまりこなくなった。部活もしてたし」
 
「へー。初耳だ、何の部活をしてたんだ?」
 
「帰宅部」
 
この子に意地悪してもいいですか、いいよね?
 
俺は思わず綺羅の頬に手をかけながら、
 
「きーらー」
 
「……冗談よ。今は帰宅部だけど、中学の時はホントに部活してたの。園芸部。学校で花を育てていたから、こっちに来ることも少なくなってた」
 
「園芸部だったんだ。高校ではしなかったのか?」
 
確かうちの学校にも園芸部はあったはずだ。
 
「高校の園芸部は人が多いからやめたの。花は見てるだけでいいから」
 
「ホントにお前って人見知りだよな」
 
「うるさい」
 
握りっぱなしだった俺の手をきゅっとつねってくる。
 
「この先にね、小さいけどもフラワーガーデンがあるの」
 
「植物園みたいなもの?」
 
「そこまで大したものじゃないけど、季節の花とか植えてる花壇があるの。テニス場の隣にあるんだ。そこが好きで、よく行ってた」
 
綺羅について行くと、たくさんの花が植えられている花壇が見えてくる。
 
手入れのされている花壇は俺達以外にも数組カップルが花を眺めていた。
 
「綺羅って花が好きって言ってたな。どういう花が好きなんだ?」
 
「この時期だとサイネリアとかカーネーションとか」
 
「あぁ、カーネーションはさすがに知ってる。もうすぐ母の日だからな」
 
両親の花屋もこの時期はカーネーションばかり扱ってる。
 
そして、その時期は忙しいので姉とそろって手伝いさせられるのである。
 
「サイネリアは……あった、あの花だよ。可愛いでしょう」
 
綺羅が指をさした先には彩り豊かな花が咲いていた。
 
細長い花びらがいくつもついた可愛らしい花だ。
 
「サイネリアって菊に似てるな」
 
「キク科だからね。でも、本当の名前はシネラリア。日本語だと、死を連想させるからサイネリアって呼ばれる事が多いの」
 
「死ね、か。確かに縁起の悪い名前だな」
 
綺羅いわく、シネラリアはラテン語で灰って意味の言葉から来てるそうだ。
 
日本語だとややこしくなる言葉って結構あるよな。
 
「先輩の家にもお花がたくさんあるよね」
 
「まぁな。親の仕事柄ってだけで俺はあんまり興味ない」
 
「もったいない。綺麗なペラルゴニウムやネメシア、ダイアンサスも咲いていたのに」
 
「そ、それは魔法の呪文か何かですか?」
 
聞き慣れない横文字にそう呟くと、綺羅から呆れた顔をされてしまった。
 
「お花屋さんの息子のくせに。もうちょっと花に興味を持てば?」
 
「こちらを睨みつけないでくれ。そうだな。俺でも知ってる花と言えば……」
 
周囲を見渡してみると、見慣れたオレンジ色の花が目についた。
 
「おっ、この花は家の近所で見た事があるぞ」
 
「それはナガミヒナゲシ。花は綺麗だけど雑草のひとつ。種が風で飛んできたんでしょ」
 
「……なんだ、雑草だったのか」
 
言われてみれば、どこかの家の塀の隙間に生えてたりしたのを思い出した。
 
「まるで、先輩みたいね」
 
「待てい。誰が雑草だ、全然褒めてないよな?」
 
さり気にひどい事を言う恋人である。
 
「ごめん、冗談。怒った?」
 
「怒りはしないけどさ。確かに俺は綺羅みたいな可愛い花ではないけどね」
 
「……ふふっ。先輩に似合わない台詞」
 
そうは言っても、どこかご機嫌の様子の綺羅である。
 
意外と言っては何だが、彼女にも好きな事があるんだな。
 
彼女は別の方の花壇を指さすと同じように見えるが色の違う花が咲いている。
 
「あっちの方が本物のヒナゲシ。あちらは雑草じゃなくて花なの。ポピーとか、コクリコって名前で呼ばれてる。花言葉は恋の予感。素敵な花よ」
 
「へぇ、似てるようで違うのか。それに物知りだ。綺羅は花が好きなんだな」
 
「大好き。花は人みたいにうるさくないし、見ているだけで癒されるから好き」
 
いつもと違って花の事になると饒舌だ。
 
花を眺めながらふたりの時間を過ごす。
 
綺羅としばらくの間、フラワーガーデンを満喫した。
 

「……また先輩の家に行ってもいい?ここにはない花の種類が多いから」
 
「おぅ。いつでも歓迎だぞ」
 
「先輩の部屋にはもう行きたくないけど」
 
「その件はもう忘れて下さい」
 
その手の類の本の方は厳重に綺羅の見えない所にすべて移動しました。
 
あれから新しい本は入荷してないんだ、勘弁してくれ。
 
 
 
その後は綺羅の手作りのお弁当を食べることになった。
 
期待のランチタイム、俺に預けていたバッグの中には美味しそうなお弁当が入っていた。
 
「おー、ちゃんとしたお弁当だ。……いつものサンドイッチとは違う」
 
「先輩には私がちゃんと料理ができる所を見せたいから」
 
「頑張ってくれたわけだな。いただきます」
 
姉以外の女の子の手作りのお弁当なんて人生で初めてだ。
 
だし巻き卵を食べてみるがこれが美味しい。
 
「……これって綺羅がひとりで作ったのか?」
 
「うん。作ってる途中で隣で姉が冷やかしてきてウザかったけども」
 
「そっか。本当に料理ができるんだな。美味しいよ」
 
「……よかった」
 
ホッとした表情の綺羅。
 
本当にどの料理も美味しくて俺としては大満足である。
 
「そういや、お姉ちゃんが帰ってきてるんだ?」
 
「まぁね。うるさい姉が家にいる。GWに帰って来なくてもいいのに」
 
「そこまで言わなくても。姉妹仲がよくないって話は聞いてるけどさ」
 
明るい人だって話だから物静かな綺羅とは相性が良くないのかもね。
 
でも、綺羅の姉だからきっと美人なんだろなぁ。
 
どんな女性なんだろう。
 
「やっぱり、綺羅に似て綺麗な人だったりするんだろ?一度くらい会ってみたいな」
 
年上美人に弱い俺とすれば気になる。
 
「いたっ」
 
だが、そんな俺に綺羅の逆襲。
 
俺の頬をむにっと引っ張りながら、
 
「……お姉ちゃんの事が気になるの?」
 
「へ?い、いや、そういうわけでは……」
 
「私の姉になびいたら、絶対に許さない。絶対に許さない」
 
大事なことだから2回も睨まれながら言われました。
 
威嚇する猫のような視線を向けられて俺は「了解」と小さく頷いた。
 
綺羅でも嫉妬してくれてるのだろうか。
 
「姉の話はもういい。味付けの方はどう?男の子が好きそうな濃い目にしたの」
 
「そこはばっちりだぜ。俺好みだよ。薄いよりも濃い方が好きだ」
 
この手作りのコロッケも美味しくて、味もかなり俺が好きなやつだ。
 
綺羅が料理上手なのが良く分かった。
 
「そう。だとしたら、よかった」
 
「いろいろと考えてくれてるんだな。ありがとう」
 
俺が褒めて頭を撫でると彼女はくすぐったそうにされるがままにされる。
 
「……んっ」
 
綺羅は撫でられるのが好きらしい。
 
やべぇ、アレキサンダーみたいな反応を見せてくれるじゃないか。
 
リアル子猫と同じ仕草をされてちょっと萌えた。
 

 
食後はのんびりとしながら公園内での時間を楽しんでいた。
 
お昼の3時を過ぎたあたりで天候が曇ってくる。
 
「本当に曇ってきたな。なぁ、綺羅……?」
 
彼女は池を泳ぐカルガモの親子を眺めていた。
 
「ヒナ、可愛い……小さいのにちゃんと泳いでる」
 
まだ小さなヒナが何羽か親の後ろを元気に泳いでついて回る。
 
生まれて間もないヒナはモコモコしたぬいぐるみのようだった。
 
俺が「綺羅」と声をかけるとこちらに振り返る。
 
「……なに、ヒロ先輩?」
 
付き合い始めてからキスしたいとか考えるようになって。
 
思わず、キスしたい衝動に駆られる。
 
勢いで俺は綺羅の身体を引き寄せる。
 
「あっ」
 
見つめ合う視線、近付く距離。
 
甘く香る綺羅の匂い。
 
緊張しながらも俺達の唇が近づいていく。
 
「……ぁっ……」
 
あと少しで唇が触れそうになる寸前だった。
 
「――だ、ダメっ!」
 
なぜか、綺羅が俺の行動を拒絶したんだ――。
 
【 To be continued 】



nice!(0)  コメント(1)  トラックバック(0) 
共通テーマ:恋愛・結婚

俺の彼女は猫系女子 【第19章:恋の意識と青い空◆岡部弘樹】 [恋愛小説]




これまでの人生であまりデートということに良い思い出がない。
 
デート=失恋のパターンが多すぎたせいだ。
 
付き合う寸前でフラれたのは一度や二度ではない。
 
さらに言えば、ただ単純に年上のお姉様たちに弄ばれてただけの場合もある。
 
なのでデートにはトラウマがあるのです。
 
……ちくしょう、これまでの経験が逆に俺を不安にさせやがるぜ。
 
「にゃん?」
 
リビングのソファーに寝そべってると、アレキサンダーが俺の腹の上に乗ってくる。
 
「アレキサンダー。人の腹の上に乗るな。せっかくのデート用の服なんだぞ」
 
「……猫の毛だらけで外に行くのだけはやめてなぁ。姉として恥ずかしいわ」
 
「だったら、姉ちゃんがこの子と遊んでくれよ」
 
「うちもこれから出かける用事があるんよ。見れば分かるやろ」
 
他所いき姿の姉ちゃんは毎度のことながら詐欺やと思う。
 
数十分前のジャージ姿から想像できない美人さんだ。
 
何度でも言おう、メイクの力ってすごい。
 
「また製菓の学校か?」
 
「そうやで。昼からやけどなぁ。今日もまた頑張ってくるわ」
 
年下の中学生の男を落とす方か、お菓子作りの勉強か、どちらを頑張るつもりやら。
 
……多分、両方だろうな。
 
「ふぅ、ホントに猫の毛だらけになるから降りてくれ」
 
我が家にただ今、預かり中の猫、アレキサンダー。
 
人懐っこくて、いつも遊んで欲しいらしい。
 
猫の頭を撫でながら俺は自分の上から下ろす。
 
「ホント、警戒心ゼロ。こんなに猫って懐くものか?」
 
「まだ生まれて半年くらいって聞いてるわ。ずっと可愛がられてきたんやろうな」
 
「……そんなものかね。甘やかされてるな、お前は」
 
子猫と戯れながら、俺は時計を見る。
 
「さぁて、と。俺も行きますか」
 
「しっかりと頑張って、綺羅ちゃんに愛想つかされんようにな」
 
「……はぁ。適度に頑張るよ」
 
素直に楽しみたい気持ち半分、不安半分。
 
うまくいく事を祈ろう。
 
そんな俺をアレキサンダーは純真無垢な瞳で見つめてのんきに「にゃー」と鳴いた。
 
俺も子猫みたいに気楽に生きたいぜ。
 

 
今日は快晴、いいお天気だ。
 
綺羅と予定したデートプランはのんびりと一日を過ごすという、当たり障りのない無難なものだった。
 
だって、買い物に誘っても綺羅は人通りの多い所は嫌いと断られてしまった。
 
さすがにこのGWの人の多さは俺も嫌になるので同意見。
 
ピクニック気分で自然公園にでも行くかと誘ったらOKしてくれた。
 
自転車で走る事、15分。
 
目的地でもあり、待ち合わせ場所でもある公園にたどり着く。
 
この公園は市民の憩いの場として整備されている。
 
池の周囲を走るジョギングコースやテニス場などもあるらしい。
 
……らしいと言うのはここにはあまり土地勘がないのだ。
 
「ここに来たのはいつ以来だったかな」
 
転校してばかりの頃、この公園に来た覚えはあるけども。
 
アウトドア派ではなく、どちらかと言えば俺はインドア派。
 
あまり自分から来るような場所ではない。
 
それでも、記憶を頼りに自転車置き場を探して自転車を置いた。
 
自然公園の入り口では白いワンピース姿の綺羅が待っていた。
 
清楚な雰囲気が実に可愛らしい。
 
「先輩、遅い」
 

俺を待っていた綺羅が不満そうにそう告げる。
 
「えー。俺、遅れた?約束は11時だったよな?」
 
ちゃんと時計で確認するが、約束の時間の5分前には到着してる。
 
綺羅は頬を膨らませながら「私は30分前に来た」と俺に怒る。
 
早すぎだろ、と突っ込みそうになるが自分の経験を思い出しながら、
 
「もしかして、今日のデートにかなり楽しみにしてた?」
 
「……うるさい」
 
拗ねる彼女は恥ずかしそうに顔を隠す。
 
何かそういう反応はすごくくすぐったくて。
 
綺羅もちゃんとした女の子なんだなって改めて感じた。
 
誰だって初デートは浮かれるものだ。
 
俺も昔はそうだった。
 
今日はいろいろと考えて浮かれ気分ではなかったけども。
 
「そんなに俺に早く会いたかった?」
 
「調子に乗るな」
 
「ははっ。そうなんだ。そう思ってくれてたら嬉しいよ、綺羅」
 
「……むぅ、ヒロ先輩のくせに」
 
ホントなら難しい事を考えずに綺羅みたいに素直になればいいんだ。
 
過去なんて関係ない。
 
俺が好きな女の子と一緒に楽しい時間を過ごす。
 
それだけなんだから。
 
綺羅の様子を見てたら不安が消えさり、楽しい気持ちでデートできそうだ。
 
「悪かったよ、そう拗ねるなって。ごめん」
 
「……ん」
 
彼女は俺に手に持っていた荷物を持たせる。
 
俺はそれを受け取ると、どうやら中身はお弁当らしい。
 
「もしかして、綺羅の手作り?」
 
「……ここでママの手作りを渡してどうするのよ」
 
「だよな。これは期待するぞ、綺羅」
 
綺羅が気分が乗ればお弁当を作ってくれるとは言っていた。
 
本当に作ってきてくれるなんて。
 
彼女は料理が上手だと聞いてる。
 
これは期待してもいいはずだ。
 
「お昼の時間が楽しみだな」
 
「……早く行こ」
 
彼女は俺に手を差し出してくる。
 
俺はその小さな手を握りながら思わず笑う。
 
「……綺羅ってさ。やっぱり可愛いやつだよな」
 
「え?」
 
「俺の恋人は可愛いなって言ったんだよ」
 
改めて言いなおすと、彼女は顔を赤らめながら、
 
「変な事を言ってないでさっさと歩く」
 
「はいはい」
 
照れ屋な一面もあるようでついからかいたくなる男心。
 
恋人になって綺羅も俺に心を許してくれてる様子だ。
 
「いい天気になってよかったな」
 
「夕方は突然の雷雨に要注意だって天気予報で言ってたよ」
 
「え?マジで?こんなにいい天気なのになぁ」
 
ゆっくりと雲の流れる蒼い空を見上げる。
 
「……天気が崩れそうになったら、早めに切り上げるか」
 
「うん。雨に濡れるのは嫌だもの」
 
繋いだ手から伝わる恋人の温もり。
 
俺はもっと綺羅を好きになっていく――。
 
【 To be continued 】


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:恋愛・結婚

俺の彼女は猫系女子 【第18章:揺らぐ心と子猫◆岡部弘樹】 [恋愛小説]




「よぅ、岡部。GW、楽しんでるか?」
 
本屋で漫画雑誌を立ち読みしていると友人の松坂に声をかけられた。
 
同じように漫画でも買いに来たらしい。
 
彼とは連休の最初に皆で遊びに行って以来、数日ぶりだ。
 
「なんだ、松坂か。お前も本でも買いに?」
 
「そんな所だな。新作ラノベを買いに来たんだよ」
 
「ラノベ?そっか、俺はあんまり小説系は読まないからな」
 
綺羅は本好きだって言っていたので、俺も読み始めてもいいかもしれない。
 
「そういや、言ってなかったな。俺さ、GW前に恋人ができたんだけど」
 
「マジ?へぇ、岡部がねぇ。どんな子だよ?相手は年下?年上?」
 
「同じ学校の年下の後輩。この前、少しだけ話した子がいただろ?」
 
「あぁ、お前が気になってるって言ってた子か。よかったじゃないか、上手くいって」
 
綺羅と出会ってからまだ1ヶ月も経っていない。
 
お互いに意識し合って、好きになって、恋人になれた。
 
ここまでは本当に順調だろう。
 
けれども、付き合い始めて数日、俺はある事に悩んでいた。
 
「恋人がいた経験のある松坂に聞きたいんだが?」
 
「なんだ?」
 
「キスっていつ頃、した?」
 
男の願望なんてそんなストレートなもので。
 
付き合い始めたら、考える事はデートやキスとか、そんなものばかりだ。
 
「……んー。その相手によるけどさ、大抵は二回目のデートくらいだったかな。ほら、一度目は何となく互いに緊張感もあるけど、慣れていくものだろう」
 
「慣れねぇ?」
 
「会うたびに緊張するとか?」
 
「そう言うわけじゃないけどさ。俺、あの子と付き合う時に彼女に合わせるって言ったんだよな。それでちょっと、俺からせかすのはアレだと悩んでるんだ」
 
俺は敬意を彼に説明してみる。
 
綺羅が少し気難しい性格をしているために、強引にはできないこと。
 
彼女に合わせると約束していること。
 
キスをしたくても、俺からどうこうするのは少し難しい。
 
「……難しく考える事じゃなくね?」
 
「そうか?」
 
「その子だって、お前を好きで付き合い始めたんだろ?恋愛感情があればキスと化してみたくなるのも普通だと思うけど。お前が変に考える必要なんてないね。デートでもしていれば、自然とそういう流れになるものだ」
 
松坂は笑いながらそう言うと、
 
「そりゃ、お前から強引に行っちゃドン引きされるかもしれないから不安になるのも分かる。それが男の子の欲望ってやつだからな」
 
揺れる心。
 
大事にしたいって気持ち。
 
綺羅のために無理強いはしたくないけども、俺にも男の欲望はある。
 
「相手を思うのも大切だけど、決める所はちゃんと決めてやらないと。お前は年上なんだからさ。年下の女の子をリードしてやるのも必要な事だぜ」
 
「……松坂、お前と友達になってから初めて何かいい事言ったなと思った」
 
「初めてかよっ。まぁ、いいや。大いに悩んでいいじゃないか」
 
悩むことも恋愛の一部ってことか。
 
「明日のデートで進展があるかどうか……」
 
「明日なんだ?しっかりとプラン立てて楽しんでこいよ」
 
「そうだな。何気にデート経験はあるんだよね、俺って」
 
俺は深いため息交じりにそう呟く。
 
その様子を見た松坂は不思議そうに尋ねる。
 
「デート経験あるのに何でため息?」
 
「いろいろとあるんだよ」
 
はっきり言おう、俺はデートにある程度のトラウマがあるのだ。
 

付き合う寸前まで言った女の子とデートで終わった事が多すぎる。
 
『キミじゃ私と付き合っても楽しめない』
 
『何か岡部君って頼りないよねぇ?』
 
『え?私ずっと貴方を財布だと思ってた』
 
年上お姉様達からフラれること数回。
 
そりゃ、トラウマにもなるわ。
 
ていうか、最後の方は完全に彼氏扱いでも何でもなかったし。
 
年上お姉様達は男心を弄ぶ魔女ばかりやったわ。
 
そう言う意味では今回は年下の女の子、過去の経験みたいな辛いことはない、はず。
 
「……はぁ、デートか。そこで終わるかもしれないな」
 
「おーい。何で楽しむはずのデートでそんなに落ち込んでいるんだよ、岡部は……」
 
楽しみたいんだけども、気が重い所もある。
 
そんな不安を抱えたデートは明日に迫っていた。
 

 
家に帰ると思わぬ出会いが待っていた。
 
「ただいまー。って、何だこれ?」
 
「にゃー」
 
玄関開けたら子猫がお出迎え。
 
まさかの展開に俺はびっくりする。
 
白い毛並みの子猫は俺の方にすり寄ってくる。
 
人に対して警戒心ゼロの子猫。
 
「おー、可愛いな。人懐っこいやつめ」
 
お腹の方を触ってやるとくすぐったそうにする。
 
俺は子猫を抱き上げると、姉ちゃんが玄関の方にやってくる。
 
「ただいま。姉ちゃん、これ誰の猫?」
 
「私の友達の猫やで。今日からGW終わるまで預かる事になってん」
 
「そうなんだ?」
 
姉ちゃんの友達が両親と一緒に海外旅行に行くことになり、猫をうちの姉に預かってもらうことになったそうだ。
 
何匹も飼ってるらしくて、他の友人たちの所にも、預かってもらってるらしい。
 
「ちゃんと、トイレも覚えてる賢い子や。可愛いやろ?」
 
「……まぁな。猫は嫌いじゃない」
 
「綺羅ちゃんも猫っぽいもんなぁ」
 
「それもそうだけどさ」
 
小さく欠伸をする子猫に癒される。
 
「でも、綺羅はこんなに懐いてくれる猫とは違います」
 
「そうかぁ?あれはあれでよう弘樹に心を許してると思ったけどなぁ」
 
「……そりゃ、出会った時よりは懐いてくれる気はするけどな」
 
綺羅と最初、出会った頃より仲良くなってるのは一目同然である。
 
それでも綺羅との距離感はまだまだ進展中だ。
 
「俺はもっと仲良くなりたいんだよ」
 
「それは弘樹の努力次第やなぁ」
 
俺は子猫の頭を撫でながら、話しかける。
 
「ホント、お前みたいに綺羅も懐いてくれたらいいのにな」
 
「にゃー」
 
「はいよ、姉ちゃん。俺、部屋に戻るから」
 
俺は姉ちゃんに猫を渡すと部屋へと戻ろうと階段をあがろうとする。
 
「――さぁて、リビングでまた遊ぶか、アレキサンダー」
 
まさかのアレキサンダーって名前に俺は階段をガクッと一歩踏み外した。
 
猫の名前が見た目以上に壮大過ぎるわ!
 
【 To be continued 】


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:恋愛・結婚

俺の彼女は猫系女子 【第17章:お姉ちゃんと私◆綾辻綺羅】 [恋愛小説]




帰省先から帰ってきた夢逢お姉ちゃん。
 
私にとって一言で言うと、鬱陶しい姉だ。
 
どこかと言われたら、全部が。
 
温かいココアが入ったカップに「ふーっ」と息を吹いて冷ます。
 
「綺羅ちゃん、相変わらず猫舌なんだよね。可愛い♪」
 
「うっさい、黙れ」
 
馴れ馴れしい姉を睨みつけてる。
 
「お、お母さん。この子、口が悪い所が全然変わってないよ」
 
「だって、綺羅だもの。すぐに変わるわけもないでしょう」
 
姉よりもママの方がちょっとひどい。
 
口が悪いのも、性格がひねくれてるのも今さらだ。
 
私は可愛げなんてものを生まれた時から持ち合わせてなんていない。
 
「お兄ちゃんは帰って来ないの?」
 
「連絡があって、今年の連休は帰らないみたい。バイトが忙しいって電話で言ってたわ」
 
ママがそう言うとお姉ちゃんが「違うわ」と否定する。
 
「兄さんは単純にバイトが忙しいって言うよりも、合コンとか楽しみたいだけでしょ。この前、連絡した時の話じゃ、合コン費用を稼ぐためにバイトが忙しいみたいよ」
 
「……兄、最低」
 
「ふふっ。男の子だもの。仕方ないものでしょう」
 
ダメな兄をフォローするママは物分かりの良い親である。
 
基本的には子供達には自由にさせるタイプの母親だ。
 
「お兄ちゃんは合コンをするために大学に行ってるようなものじゃないの。どうせ、お姉ちゃんも合コンばかりでしょう」
 
「待ってよ。私は違うってば。大体、女子大だし。出会いなんて全然なし。始めたばかりのアルバイトも、女子向けの洋服を売ってるお店だから女性客しか出会いがない」
 
彼女は出会いがない事を寂しそうに語る。
 
「……可哀想」
 
「綺羅ちゃんに同情された!?」
 
お姉ちゃんは「そういう綺羅ちゃんだって出会いがないでしょ」と唇を尖らせる。
 
私は黙ってココアを飲み続ける。
 
「綺羅ちゃんも、もっと素直にならないと男とお付き合いなんてできないわよ」
 
「余計な心配なんてしなくてもいい」
 
「何か余裕ねぇ……何の余裕なの?」
 
「夢逢。綺羅には彼氏ができたのよ」
 
ママが余計な事を言うので、私はため息をついた。
 
なんで、教えちゃうかな。
 
「えー!?う、嘘だ。私よりも先に綺羅ちゃんに彼氏ができるなんてありえない」
 
案の定、うるさい声で夢逢お姉ちゃんは叫ぶ。
 
「高校時代に選り好みしすぎて、告白されても断り続けたのは誰?自業自得」
 
「うぐっ。だ、だって、もっと良い男の子がいると思ってたら、いつのまにか卒業して今みたいな状況になるなんて思わなかったし。青春って短いのね」
 
お姉ちゃんはモテたらしいけど、選り好み過ぎたせいで結局、彼氏はできずじまい。
 
「仕方ないじゃない。告白された男よりも次に告白してきた男の子の方が魅力かもしれない。私はちゃんとした人を選びたかっただけだもん。それを選り好みって言われて困るわ。下手な男と付き合いたくはないでしょ?」
 
「ただの言い訳。やっぱり、自業自得」
 
「うぇーん。何か綺羅ちゃんにバカにされてる」
 
「チャンスを逃し続けた姉とチャンスを逃さなかった妹。対照的な姉妹ねぇ」
 
さりげないママの一言が一番ひどい。
 
一人身の寂しい姉は私に詰め寄って尋ねた。
 
「ホントに彼氏ができたの?冗談だよね?」
 
私は温くなったココアを飲みながらあ然とする姉を見つめる。
 
「……ふっ」
 
鼻で姉を笑ってやるとものすごくショックな顔をする。
 
「う、嘘だ。綺羅ちゃんに恋愛に対して、鼻で笑われた」
 

「綺羅に彼氏ができたなんて私でも驚いたわ。娘は成長するものなのね」
 
「お母さん。綺羅の彼氏を知ってるの?会った事ある?」
 
「あるわよ。とても優しい子だったわ。外見も男前な年上の先輩よ」
 
さらにお姉ちゃんはショックを受けたようで肩を落とす。
 
姉の落ち込む様は見ていて面白い。
 
「……そ、そんな、私の綺羅ちゃんが」
 
私はお姉ちゃんのものじゃない、と突っ込むべきか悩む。
 
「顔はアイドルグループのストームの小野君に似てるかしら」
 
「癒やし系男子?私は双葉君の方が好きかな」
 
「……お姉ちゃんの趣味なんて聞いてないし」
 
そもそも、アイドルで例えられても誰か知らない。
 
お姉ちゃんはようやく私に彼氏ができた現実を受け止めたみたい。
 
「そっか。綺羅ちゃんにもついに彼氏が……何かショックだわ」
 
「綺羅は高校に入ってから少しずつ変わった気がするの」
 
「……別に。私はまだ何も変わってない」
 
変わるとしたらこれからだと思うの。
 
先輩と付き合っていく中で変わっていける気がする。
 
「……ふぅ」
 
ママにからかわれるのも、お姉ちゃんに追求されるのも嫌。
 
飲みほしたココアのカップをテーブルに置く。
 
「綺羅。おかわり、いる?」
 
「もういい」
 
「綺羅ちゃん。告白はどちらから?もしかして?」
 
「姉、うるさい。もう私は寝ます」
 
お姉ちゃんと話をしてもしょうがないので私は席を立ちあがる。
 
「気になるじゃない。ちゃんと話してよ」
 
「姉に話すことはない」
 
「つれないじゃない。お姉ちゃんは悲しい」
 
「……勝手に悲しんでおけばいいじゃない?」
 
私の言葉に彼女は頬を膨らませながら、身体をくねらせる。
 
「久し振りの姉に対して冷たい~」
 
「姉、気持ち悪い。私達は元からこんな関係でしょ」
 
「ぐすっ、妹が冷たくてホントに悲しい。……それじゃ、ひとつだけでいいから教えてよ。大事なことなの」
 
私の服を掴みながらお姉ちゃんは尋ねた。
 
服が伸びると面倒くさいので私は「分かったから離して」とその手を離させる。
 
「それで、何?つまらないことなら言わない」
 
「これは私の矜持に関わる問題よ。綺羅ちゃん」
 
「だから、何?」
 
彼女と話すのは疲れるからホント嫌なの。
 
無駄にテンション高いし、うるさいし。
 
さっさと解放されたい。
 
姉は私の瞳を真っすぐに見つめながら言ったんだ。
 
「――もう彼氏さんとキスはした?」
 
……問答無用でソファーのクッションを姉に全力で投げた。
 
「ぎゃふんっ!?」
 
私の投げつけたクッションを顔面に受けて姉はソファーからひっくり返る。
 
私はもう付き合いきれないとリビングを後にする。
 
「ふふふっ。お母さん、今の反応見た?あれは絶対にキスはまだだ。よしっ、姉の面子はまだ保たれているわ。やったね」
 
床に倒れながら呟く彼女の言葉に私は「姉、心が小さい」と嘆きながら、リビングの扉を閉めたの。
 
【 To be continued 】


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:恋愛・結婚

俺の彼女は猫系女子 【第16章:唇と惚気◆綾辻綺羅】 [恋愛小説]




『恋人が出来てよかったじゃん。おめでと、キラ』
 
「……うん」
 
その日は有希と電話しながら私は報告をしていた。
 
付き合う前に相談に乗ってもらったので彼女に伝えておきたかった。
 
『キラの方が先に恋人ができるなんてずるい』
 
「私は自分に恋人ができるなんて思いもしてなかった」
 
『でもさ、他人に苦手意識のあるキラが信じられる相手を見つけたってのは友達としては嬉しいよ。いい先輩に会えてよかったね。キラ、惚気てもいいんだよ?』
 
「……だから惚気ないってば。ろこつな惚気はしません」
 
人に対して惚気るほどに私は素直じゃないと何度言えばいいのか。
 
『他人の惚気を聞くのはつまらないと思うけど、キラの惚気は聞いてみたい』
 
「有希~」
 
『あははっ。でも、たった1ヶ月くらいしか経っていないのに、今のキラは私の知らないキラだもの。恋は人を変えるんだね』
 
この恋は私を変えた。
 
具体的にどこが、と言われると、他人との接し方かもしれない。
 
先輩に出会わなければ、私は他人と距離を置き続けたままだった。
 
今もたいしてそれは変わらないけども、これから変わっていく気がする。
 
初めて好きになった人。
 
ヒロ先輩には特別な魅力があるわけじゃない。
 
けれど、私にとっては誰よりも必要な人だ。
 
彼以外を好きになる事はないだろうし、彼以外が私を好きになる事もないと思う。
 
「先輩と相思相愛になれてよかった」
 
私がそう思ってるなんて、本人に恥ずかしくて伝える事はないけども。
 
『それ、十分に惚気だから。自覚してる?』
 
「……っ……」
 
電話越しに有希の笑う声が聞こえた。
 
友達に恋の話をする自分が今でもどこか不思議でしょうがない。
 
『キラの恋人の名前、何だっけ?』
 
「弘樹先輩。私はヒロ先輩って呼んでる」
 
『そうなんだ。弘樹先輩って本当にキラを愛してくれてるんだね。聞いてるだけでも分かるよ。先輩の事、好き?』
 
「……好き」
 
『ふふっ、キラももっと素直になったら可愛いのに』
 
それができないから私は私なんだ。
 
私はこう言う性格だから先輩も分かって付き合ってるはず。
 
『そう言えば、キスとかデートとかした?』
 
有希の言葉に私は固まる。
 
「……デートの予定はあるけども、キスはしてない」
 
『まだなの?キラもキスとかしたいんじゃない?』
 
「それは……」
 
私は自分の唇を人差し指で撫でた。
 
ファーストキス。
 
私にとっては未だに経験のない行為。
 
恋愛小説とか漫画ではよくあるシチュだけども。
 
「……今はまだいいと思ってる」
 
『え?そうなの?』
 
「今は先輩と一緒にいるだけでいい。すごく安心できるの」
 
『キラにとってはまだ恋人って存在といちゃいちゃしたいって言うよりは一緒にいたいって気持ちだけなんだ?』
 
私は頷いて自分の気持ちを言葉にする。
 
「まだ先輩の事、知らない事も多いから。今はその関係をもっと近付けたいだけ。キスとか、興味がないわけじゃないけども、焦らなくてもいいでしょ」
 
『……先輩の方もそれでいいのかな?男の子ってガツガツしてない?』
 
「大丈夫だよ。私の性格を分かってるから、自分達なりのスタイルで付き合っていけたらいいって言ってくれてる」
 
その言葉に私は彼の事をもっと好きになった。
 

私の事を分かってくれる。
 
それだけでとても安心できたから。
 
『いい先輩だね。キラが好きになるワケだ』
 
「……普段は変な人だけどね」
 
『ふふっ。またそう言う事を言って。いい人だって、素直になれないの?』
 
有希の言葉に何も言い返せなかった。
 

 
「ただいまっ」
 
お風呂からあがってくると、元気のいい明るい声が玄関から聞こえてくる。
 
「……ん?」
 
「あら、おかえりなさい。夢逢」
 
「……帰ってきたんだ、お姉ちゃん」
 
リビングに荷物を持って現れたのは私の姉だった。
 
大学1年生の綾辻夢逢(あやつじ ゆあ)。
 
夢で逢える、なんてメルヘンな名前の姉である。
 
「綺羅ちゃん、ただいま~」
 
にこやかな笑みを浮かべながら私に抱きついてくる。
 
「……ん」
 
「あれ、反応薄くない?久々に帰って来たのに」
 
彼女は今は大学生で、先月から離れた場所で暮らしている。
 
正直、兄も姉もいなくなってから我が家は静かで過ごしやすい。
 
「私がいなくて寂しいでしょ?ねぇ?」
 
「全然。部屋が広くなってむしろ嬉しい」
 
素直にそう言ってあげるとどうやら傷ついたようで、
 
「ぐすっ。お母さん、綺羅ちゃんがひどい~」
 
「いつものことでしょ。綺羅、せっかく帰ってきたんだからそう言う事を言わないの」
 
「だって、ホントの事だもの」
 
うるさい姉が私は苦手だった。
 
いつも無駄にテンションが高いし、抱きついてくるし。
 
いなくなってからの生活はすごく快適だ。
 
「ひどい。こんなにも私は妹を大事に想ってるのに」
 
「私は猫じゃない。まずは頭を撫でる所からやめて」
 
「やだなぁ。綺羅ちゃんが可愛いから、ついハグしちゃうだけだよ」
 
嘘つけ。
 
何かあれば抱きついてくるのが鬱陶しい。
 
「……おやすみ」
 
「ま、待ってよ。せっかく、帰省したお姉ちゃんともう少しお話してもいいじゃない」
 
お姉ちゃんは不満そうに頬を膨らませる。
 
そのやり取りを見ていたママもどうやら姉の味方のようだ。
 
「綺羅。ココアでもいれてあげるから、座りなさい」
 
「……ちっ」
 
逃げられないと思った私は姉を睨みながら小さく舌打ちする。
 
「お、お母さん。この子、今、私の顔を見て舌打ちしたよ。ひどくない!?」
 
「ふたりとも。夜なんだから静かにしなさい。夢逢も何か飲む?」
 
「私も同じのでいいよ。それにしても、ホント、綺羅ちゃんは私に懐かないね」
 
嘆く姉に私は言ってやりたい。
 
人を猫みたいに撫でるのをまずやめて、と。
 
【 To be continued 】



nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:恋愛・結婚

俺の彼女は猫系女子 【第15章:眠気と旋律◆岡部弘樹】 [恋愛小説]




午後3時を過ぎた頃、姉ちゃんが扉をノックしてきた。
 
「弘樹、綺羅ちゃん。ティータイムにしよ?」
 
「お、おぅ」
 
扉を開けた姉ちゃんは、いぶしかげな目つきで俺に問う。
 
「……えっと、弘樹。アンタ、何してるん?」
 
先程、疑惑の本を見つけられた俺は部屋で正座していた。
 
『私が良いっていうまで正座でもしていて』
 
綺羅の命令、許しをこうためには仕方なくするしかなかったのである。
 
「反省タイムだ。見て分かるだろ」
 
「いや、全然分からんけど……恋人を家に誘って何してるんや。悟りでもひらいたか?」
 
俺だって好きで足がしびれるまで正座してるわけではない。
 
綺羅に命じられて、こうして正座を続けて早30分。
 
両足が痺れて限界なのに、容赦なく「ダメ」と継続を命じる綺羅はドSです。
 
この子は怒らせたらひどい目にあう、と思い知らされてます。
 
隣で携帯をいじる綺羅はご機嫌ななめのままだ。
 
ちくしょう、俺の失態で綺羅に嫌われてしまったではないか。
 
「綺羅ちゃん、ケーキを焼いたんやけど食べる?」
 
「甘いものは好きです」
 
「そっか。そりゃ、よかったわ」
 
「姉ちゃんの作るケーキはうまいぞ。お菓子作りは姉ちゃんの趣味だからな」
 
ようやく正座から解放されて立ち上がる。
 
「……先輩の事、許したわけじゃないから」
 
ぼそっと呟く綺羅に俺は「もう許してくれよ」と嘆いた。
 
そういう類の本を持っていただけなのに。
 
そこまで胸の大きさがコンプレックスだったんだろうか。
 
女の子の恨みは怖いと実感する俺であった。
 

 
リビングのテーブルの上には出来たての美味しそうなチョコレートケーキ。
 
姉ちゃんの手作りケーキは本当に美味しいのだ。
 
「全部、手作りなんですか?」
 
「そうやで。うちの趣味やねん。こうしてケーキとか作ってる時が一番楽しい時間やわ」
 
「……すごいですね」
 
ショートケーキの味はいつもと同じく美味い。
 
綺羅は小さくフォークで切りながら食べる。
 
「……どうや、綺羅ちゃん。美味しい?」
 
「美味しいです。まるでお店のケーキみたい」
 
「そっか。そう言ってもらえると嬉しいわぁ」
 
口は悪いのに料理だけは上手い姉である。
 
「趣味の範囲やけども、製菓学校にも行ってるから」
 
「凛花さん。将来はパティシエとかの夢があるんですか?」
 
「そこまでは今は考えてへんけど。料理するのは好きやからなぁ」
 
「そっち方向に進めばいいのに」
 
姉ちゃんには料理系の路線は向いてると思う。
 
本人はあくまでも趣味としか言わないけどもな。
 
他愛のない雑談をしていると、綺羅の視線はリビングに置いてあるピアノに向かう。
 
「あのピアノは?」
 
「昔、うちがピアノを弾いてた頃のものやね。もう何年も弾いてないわ」
 
「……そういや、姉ちゃんはピアノを習ってた時期もあったんだよな。まだ大阪にいた頃だったっけ?すごい懐かしい」
 
「ほんまやねぇ。今さら弾く気にはなれへんけどな」
 
このピアノは電子ピアノだ。
 
電子ピアノは普通のピアノより安いし、調律が不要なため初心者向けのピアノと言える。
 
姉ちゃんがピアノを習っていた頃に俺も少しだけ教えてもらったっけ。
 

結局、今ではお飾りの家具になってるけどな。
 
「綺羅ちゃんはピアノが弾けるん?」
 
「……少しだけなら。私も昔に習ってたの」
 
「へぇ、そうなんだ?綺羅、ちょっと弾いてみてくれよ」
 
俺が催促すると嫌な顔をせずに彼女はピアノを触り始める。
 
電源をいれると適当に鍵盤を押して音を確認する。
 
そして、彼女はゆっくりとピアノを弾き始めた。
 
綺麗な音色がピアノから流れる。
 
落ち着く、静かなメロディ。
 
リビングにピアノの旋律が響き渡る。
 
「うまいもんやな。ノクターンか」
 
「のくたーん?」
 
「ショパンのノクターン第2番やね。いい音をさせてるやないの」
 
姉ちゃんは感心しながらピアノを弾く綺羅を見つめ続ける。
 
ピアノを奏でる綺羅は楽しそうだ。
 
しばらく聞き続けてると眠気が襲ってくる。
 
ピアノの音色ってのは睡眠効果があるんじゃないか。
 
「……」
 
心地よい音色にこのまま眠ってしまいたくなる。
 
「ていっ」
 
だが、そんな俺の眠気は姉に頭を叩かれて目が覚めた。
 
「痛いじゃないか」
 
「綺羅ちゃんが弾いてるのにアンタが寝るな」
 
「すみません」
 
「……まったく、人が弾いてる時に寝るのは失礼やで」
 
確かにそれはそうだな。
 
綺羅はと言えば、こちらに振り返る事もなくピアノに集中している。
 
最後まで弾き終わると、ピアノの鍵盤から指を離した。
 
「どう?」
 
「すごかった。上手だったよ、綺羅」
 
「ほんま驚いたわ。綺羅ちゃん、やるやないの」
 
綺羅の話では昔からお母さんの那美さんがピアノが好きだったらしい。
 
それで姉妹揃って小さい頃から習っていたそうだ。
 
「ええ音色やったわ。今でも弾いたりしてるん?」
 
「時々、弾くくらいです」
 
「それでも、これくらい弾けるんやったらすごいなぁ」
 
姉ちゃんは「もう一度紅茶を淹れてくるわ」と言ってキッチンに向かう。
 
ピアノを閉じた綺羅の頭を俺は撫でた。
 
くすぐったそうに大人しく彼女は受け入れる。
 
「綺麗な音だったよ。綺羅がこんなにピアノが上手だったなんて知らなかった」
 
「……別に。この程度は上手ってほどじゃない」
 
「そうかな?俺は綺羅の弾くピアノはいいと思うよ」
 
そう言った俺に綺羅は小声で囁く。
 
「寝そうになってたくせに」
 
「ぎくっ、気づいてました?」
 
「でも……先輩の寝顔は見たことないから見てみたいかも」
 
「俺は綺羅の寝顔を何度も見てるけどな」
 
俺の言葉に顔を赤らめて「忘れなさいっ」と怒られてしまった。
 
「……先輩の寝顔、いつか絶対に見たい」
 
なんて宣言されてしまった俺は照れくさくなってひとりにやけてしまった。
 
ホント、俺の恋人は可愛いやつだ。
 
【 To be continued 】


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:恋愛・結婚

俺の彼女は猫系女子 【第14章:招待と紹介◆岡部弘樹】 [恋愛小説]




綺羅と付き合い始めて3日目。
 
ゴールデンウィークに入って、休日モードになった身体がなまけ始めた頃。
 
今日は綺羅が我が家にやってくる。
 
朝から適度な緊張を感じて、俺は部屋の掃除をしていた。
 
「姉ちゃん、今日は家にいるのか?」
 
「ん?おるよ、何かあるの?」
 
「その、今日は付き合い始めた恋人が家にくるんだけどさ」
 
リビングのソファーで雑誌を読んでる姉に物申す。
 
相変わらず人を幻滅させてくれる、よれたジャージ姿だ。
 
「綺羅ちゃんか。うちに紹介してくれるん?」
 
「その事でお話があります。今からお出かけでもしてくれたら俺、すごく嬉しい」
 
「嫌やで。何で、連休中で鬱陶しいほど、人がぎょうさんおる外に遊びにいかなあかんの。人ごみとか嫌いやねん。そんなん面倒くさいわぁ」
 
アンタは大阪のおばちゃんか。
 
つい、実姉にそう突っ込みたくなる。
 
だらけモードの姉はこちらに視線を向けることなく雑誌を読みながら、
 
「しかも、ひとりで?そんなん嫌やわ。絶対、変な男にナンパされるんやで。うち、こう見えても美人やからモテるし。そんなん困るで」
 
「困る素振りを見せて言え。今の姿を見たら100%振られるのにな」
 
腐女子向け雑誌を読んで、だらけるジャージ姿の姉ちゃん。
 
これできっちりと身なりを整えたら美人になるのだから、世の中って不思議だ。
 
お化粧の力とも言うべきか、女の子ってすぐ変われちゃうから怖い。
 
そういう意味では、着飾ることなく可愛い綺羅は本物の美少女だと思います。
 
「そこを何とかお願いします」
 
「まさか、家に連れ込んで怪しい事でもしようっての?無謀や。アンタにはまだ早いで。男のレベルが低すぎるうちは女の子を満足させられるわけが――」
 
「待て、何の話をしようとしてる!?」
 
変な方向に話が流れそうになり、慌てて姉の暴走を止める。
 
恋人になり、たった数日でそこまで進展できるのは大人のゲームの世界だけだ。
 
付き合い始めて、すぐに押し倒せるほど俺は勇気も根性も経験もない。
 
「そういう予定はないが。ほら、何となく、雰囲気的なもので。分かるだろ?」
 
「別に自分の部屋で遊んでたら、いいやないの。うちを巻き込まんと欲しいわぁ」
 
「……ちぇ」
 
姉ちゃんを追い出す作戦、失敗である。
 
別に家にいて困る事をしようと思ってるわけではない。
 
ただ、口うるさい姉と物静かな綺羅を会わせたくなかっただけである。
 
「さぁて、綺羅ちゃんが来るんやったらお菓子でも作っておこう。綺羅ちゃんは甘いもの好き?甘いものが嫌いな女の子なんておらんけど、一応聞いておくわ」
 
「好きだと思うけど。えっと、ホントに綺羅と会うつもり?」
 
「当然やん。せっかく、弟にできた初めての彼女なんやし。姉として挨拶するのが筋やろう。それに、からかいがいがありそうやわ」
 
さらっと本音が出て、キッチンに向かう姉に俺はため息しか出なかった。
 
「せめて、綺羅の前でジャージ姿はやめてくれ。弟からのお願いだ」
 
「はいはい。そこまで言うなら着替えてあげるわ。面倒やな」
 
その願いだけは聞いてくれた優しい姉である。
 

 
綺羅の家まで迎えに行って、俺は我が家に案内する。
 
私服姿の綺羅を初めてみたが、ひらひらのフリルのついた可愛らしい服を着ている。
 
……少し子供っぽいけど、とても可愛らしい。
 
「ここが先輩の家?ちゃんとした一軒家なんだね」
 
「中古物件だけどな。綺羅の家みたいに高級住宅地じゃないし」
 
築年数のわりには綺麗で立派な家ではある。
 
さすがに高級マンションである綺羅の家に比べたら見劣りするけどな。
 
「どうぞ」
 
家に案内すると、綺羅は庭を見て「あっ」と小さく驚いた。
 
庭には彩り豊かな花が所狭しと植えられている。
 
季節毎に咲く花を変えて植えていて、まるで洋風ガーデンだと感心する出来栄えである。
 
普通の家に似つかわしくない豪華な庭だとご近所でも噂である。
 
「とても綺麗なフラワーガーデン」
 
「俺の両親、駅前で花屋をしてるんだ。その関係もあって、花好きなんだよ」
 
そのために家には花の本やら、山のようにあるわけで。
 
親の趣味とは言え、友人を家に連れてくるのは少し恥ずかしい。
 
「今度、そのお店に行ってもいい?」
 
「いいけど?何だ、綺羅って花とか好きなのか?」
 
「……うん。好き」
 
表情に出ないけど、多分、笑顔で言ったんだと思う。
 
綺羅にとっては好印象だったのは意外だ。
 
親に紹介するのはアレだが、綺羅が喜びそうならばお店にも連れて行こう。
 
家の中へと入ると、まともな私服に着替えた姉ちゃんが出迎える。
 
「初めまして、綺羅ちゃん。弘樹の姉の凛花や。ヘタレな弟やけど、根は真面目やから愛想尽かさんようにしてやってな」
 
「……誰がヘタレだ」
 
「先輩がヘタレなのは知ってる」
 
「綺羅も納得しないでくれっ!?」
 
俺だって恋人にヘタレって言われた泣く。
 
姉ちゃんの顔と俺の顔を見比べた綺羅は不思議そうな顔をして、
 
「……義理の姉弟?」
 

「なんで血筋を否定するんだよ。血のつながった実の姉弟だ」
 
「いや、だって、お姉さん美人だし。先輩と似てない」
 
「……か、顔が似てるかどうかはいいだろう。男と女の違いって奴だ」
 
確かに顔は似てないのは自覚しているが、俺も不細工なわけではない。
 
こう見えて、それなりに女の子とお付き合い寸前まではいった経験があるのだぞ。
 
……経験だけで実績はゼロなのだけど。
 
「弘樹とうちはあんまり似てないけどなぁ。可哀想やけど、不出来な弟なもので」
 
「俺を出来そこないみたいに言うな。傷つくぜ」
 
「……打たれ弱い性格もほんま、うちと似てないわ」
 
自分でもそう思うよ。
 
ガサツながらも強い姉に憧れます。
 
俺は自分の部屋へと案内する事にした。
 
「ここが俺の部屋だ」
 
部屋には漫画の類が並んだ本棚とテレビ、ゲーム機にベッドがあるだけ。
 
特別汚くもなければ、綺麗でもない、平凡な男の部屋である。
 
つい昨夜までアイドル歌手のポスターとか貼ってたのは全部、剥がしておきました。
 
「……お兄ちゃんの部屋並に汚いと想像してたのに、全然違う」
 
「一応、掃除くらいはしたからな」
 
「ふーん。何か普通すぎて、つまらない」
 
つまらなくて結構、突っ込まれて恥ずかしいものがあるよりマシだ。
 
女の子を家に呼ぶのに、いろいろヤバいものがあるのはまずいだろう。
 
それ系の奴は全部、押し入れに隠しておきました。
 
「逆に綺羅の部屋はどういう部屋なのか、とても気になる」
 
「先に言っておくけど、私は家に招いても部屋には連れて行かないから」
 
「……なぜ?なぜ?なぜなんだ、綺羅?」
 
恋人の無慈悲すぎる発言に俺は大いにショックを受けた。
 
「女の子の部屋に入りたいっていう先輩の欲望を叶えないために決まってる」
 
「な、なんてことだ……」
 
綺羅らしい答えに俺はうなだれるしかなかった。
 
ちくしょー、女の子の部屋に入りたいよ。
 
男なら誰だって女子の部屋に憧れを抱くはずだ。
 
我が姉のように、入れば帰って来れないような魔の巣窟ではない事を切に望む。
 
あんな男の幻想を2秒でぶち壊す部屋なんて俺は認めんぞ。
 
「そ、そこまで落ち込まなくても。私の部屋なんてつまらないだけだから気にしないで」
 
軽く俺の肩を叩いて慰めてくれる。
 
恋人になってほんの少しだけ綺羅が優しくなった気がするのは気のせいだろうか。
 
「……私の部屋はこれよりもっと普通。テレビもない。本好きだからほとんど、本棚に囲まれてると言ってもいい。あとはぬいぐるみ多数。そのくらいかな」
 
「意外とシンプルなんだな」
 
「お姉ちゃんの部屋はもっと華美で、先輩が期待するような女の子らしい部屋だよ」
 
姉妹でも性格が違えば当然、部屋の中身も違うようだ。
 
綺羅の姉にも興味はあるのだ。
 
お母さんの那美さんも美人だし、綺羅がこれだけ可愛いのならば、きっと素敵な美人さんに違いないと断言できる。
 
「一度くらい、綺羅の部屋に入ってみたいものだ」
 
「……そして、私の部屋の匂いをクンクン嗅ぐ変態の先輩が容易に想像できるわ」
 
「おいっ。俺の匂いフェチ疑惑はやめてくれ」
 
そんな真似する恋人は本気で嫌だ。
 
千年の恋も冷めるぜ。
 
しばらく、俺の部屋の観察をしていた綺羅はある事に気付く。
 
「……先輩は巨乳のお姉さんが好きなのね」
 
「は?」
 
「その手の本がここに。体形が小柄な私への当てつけ?」
 
こちらに向けられる冷たい眼差し。
 
拗ねる綺羅の視線の先には、隠し忘れたコンビニでこっそり買ってる雑誌が並ぶ。
 
『青色の瞳のお姉さん特集』『逆らえない魅惑がそこにある』。
 
並ぶ煽り文句、綺麗なお姉さんが表紙の雑誌の数々。
 
年上&巨乳好きの疑惑を否定できない材料が山積みだった。
 
「……い、言い訳をさせてもらえないだろうか?」
 
「聞いてあげてもいい」
 
「綺羅。俺は例え、恋人の胸が平たくたって気にしない男だ」
 
問答無用で綺羅に頭を殴られた。
 
綺羅を初めて招いたその日、俺への好感度は急降下した。
 
【 To be continued 】


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:恋愛・結婚

俺の彼女は猫系女子 【第13章:初恋と繋がる想い◆綾辻綺羅】 [恋愛小説]




生まれて初めて恋をして。
 
初めての恋人ができた夜のこと。
 
夕食を食べていると、ママがさらっと問題発言をした。
 
「明日からGWね。綺羅は弘樹君とどこかにデートでもするの?」
 
「……は?」
 
「だって、昨日から妙に落ち着かないし。ついに付き合う事になったんじゃないかなって思ったんだけど、違うのかしら?」
 
見抜かれていた事にびっくり。
 
勘のいい人なので、私の些細な行動から気づいたのかもしれない。
 
「……そんな話はしていない」
 
「あら、付き合ってる事は否定しないだぁ?そうなんだ、付き合い始めたのね?」
 
「ふんっ」
 
答えるつもりはないので、私は夕食のドリアを黙々と食べ続ける。
 
熱いものは苦手なのでゆっくりと口にいれていく。
 
ドリアの焼けて溶けたチーズが美味しい。
 
「と言うのは冗談で綺羅をからかってみただけ。ちゃんと話は聞いてるのよ。実はさっき、弘樹君に会ったの」
 
「え?先輩に、どこで?」
 
「夕方、買い物の途中ですれ違ったの。彼、そこの近くの家に住んでいるのね。意外と近いじゃない。綺羅と付き合い始める事になりましたって挨拶されちゃった。ホントにいい子よね、弘樹君って」
 
どこか照れくさそうにママは笑う。
 
どうやら、家に帰る途中で偶然にあったらしい。
 
「何で、ママが照れるのよ」
 
「だって、そういう挨拶がこんなにも早いなんて驚いのたよ。綺羅の性格だと恋人なんて遠い未来だと思ってたのに。娘をちゃんと想ってくれる男の子がいるんだって思うと嬉しいじゃない」
 
「……そういうものなの?」
 
「そういうものよ。綺羅もいつか子供ができたらこの気持ち、分かると思うわ。自分の大事な子供が成長してるんだなぁって実感は本当に嬉しいものよ」
 
笑顔を浮かべているママに「そう」と短く答える。
 
「弘樹君、綺羅の事をちゃんと大事にしますって言ってくれたわよ」
 
「……」
 
「あら、だんまり?それとも恥ずかしいだけ?」
 
「う、うるさいなぁ。娘をからかわないでよ。もうっ」
 
ホント、他人をからかうのが好きな人だ。
 
つけ入る隙を与えたらこのありさま。
 
「照れてるだけか。ホントに綺羅は可愛いわね」
 
くすっと微笑してるママを私は追い払う。
 
気恥ずかしさで私はドリアを食べ終わるとすぐに席を立つ。
 
洗い物をしていたママはリビングを出ていこうとした私に言った。
 
「ねぇ、綺羅」
 
「なに?」
 
「せっかく、貴方を理解してくれる相手と巡り合えたんだから、その縁を大事にしなさい。貴方が初めて好きになった男の子なんだもの。いつもみたいに自分勝手でわがままだとすぐに嫌われちゃうわよ」
 
「余計なお世話。そんなの言われなくても……」
 
「分かってるならいいの。弘樹君は優しい子だから甘えたいのなら甘えてもいいと思う。彼は綺羅をちゃんと受け止めてくれる子だって思うもの」
 
私は普通の女の子みたいに可愛くない。
 
素直じゃないし、可愛げもなく、生意気な方だって言う自覚がある。
 
でも、私は私のままでいい。
 
ヒロ先輩ならきっとそんな風に言ってくれる気がして。
 
私は自分で思っている以上に彼を信頼しているんだって気がついた。
 

 
 
部屋に戻ると、携帯電話の着信音に気付く。
 
「また有希から?」
 
と、思ったけどもディスプレイに表示されていた名前は……。
 
「……ヒロ先輩からだ」
 
恋人になったばかりの彼の名前に思わず胸が高鳴る。
 
すぐに電話に出ると、先輩が「綺羅」と私の名前を呼んだ。
 
電話越しに聞く彼の声はいつもと違って、何だか不思議な感覚になる。
 
「どうしたの?何か用事?」
 
『ん?別に用があるってわけじゃないけどさ。綺羅の声が聞きたくなったから電話してみたんだけど。今、忙しいか?』
 
「そういうわけじゃないけど、意味もない電話なんて私はしないから」
 
用もないのに電話なんてかけてこないで。
 
とはさすがに彼には言わないけども、私の考えはそういうものだ。
 
基本的に無駄なおしゃべりをするタイプではない。
 
『電話ってそんなものじゃないか。綺羅も友達とそういう会話くらいするだろ?』
 
「……たまにはね」
 
最近までは皆無だったけども、時々、有希と話をするくらいだ。
 
私はベッドに座りなおすと、お気に入りのぬいぐるみを抱きしめながら、
 
「私は一人の時間が好きなの」
 
『知ってる。でも、せっかく、恋人になれたんだ。こういう機会も増やしたい。ダメか?』
 
「ダメじゃないけど、よく分からない」
 
『付き合い初めなんてそんなものだと思うよ。俺も経験ないからよく分からないけどさ。綺羅の性格は知ってるし、束縛する気はないよ。会いたい時にあって、話したい時に話す。俺たちなりのスタイルで付き合っていけたらいい』
 
先輩の優しさは素直に嬉しかった。
 
面倒くさい私とちゃんと向き合ってくれる所が私は好きになったんだと思う。
 
『……うん』
 
彼の事が好きだから恋人になりたい。
 
その気持ちは嘘じゃない。
 
私に誰かと付き合いたいと思える気持ちが芽生えるなんて。
 
「そう言えば、ママに会ったの?」
 
『ちょうど綺羅と別れてすぐくらいに買い物帰りだったんだと思うけど、会ったよ。一応、挨拶しておいたぞ』
 
「先輩のせいでママにからかわれたじゃない」
 
『那美さんからは「素直じゃなくて生意気だけども、娘をよろしくお願いします」って頼まれた。いいお母さんじゃないか』
 
「素直じゃなくて生意気で悪かったわね」
 
ママめ、私のいない所でも同じ事を言ってるし。
 
誰が素直じゃなくて生意気なのよ……私か。
 
『拗ねるな。俺は綺羅の事、理解してるつもりだぜ』
 
「……ふんっ」
 
『話を変えるけど、GWの予定とか考えないか?確か、綺羅は那美さんと一緒にクラシックを聴きに行くんだったよな?』
 
「それはGWの最終日の予定なの。それ以外は私は空いてる」
 
『そっか。それじゃ、デートとか遊びに行く予定を立てても大丈夫だな』
 
先輩とGW中の予定について話をしていたらすっかりと深夜になっていた。
 
何気ない会話でも、中身のない言葉のやり取りでも。
 
好きな人と話す時間は楽しくて。
 
電話越しで繋がりあう想いを感じていたの――。
 
【 To be continued 】


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:恋愛・結婚

俺の彼女は猫系女子 【第12章:返答と抱き心地◆綾辻綺羅】 [恋愛小説]




最悪だ、最悪だ、最悪だ。
 
私にとってデジャブ感のある心の叫び。
 
私は絶望感を抱きながらうなだれていた。
 
「ゴールデンウィーク中は気をつけて楽しむように」
 
授業が終わり、担任がそう言ってHRを続けてる様を眺めていた。
 
早く終わって欲しい。
 
もうさっさとこの教室から消えてしまいたい。
 
なぜ、私がこんな風に絶望しているかと言うと昼休憩にやってしまったからだ。
 
昼休憩、先輩が教室まで私を呼びに来た。
 
告白の答えを求められたんだと思う。
 
……思う、と言うのはそこから先の記憶がないから。
 
昨晩はほとんど眠れずにいたせいで、お昼ご飯を食べて急に眠気がやってきた。
 
そのせいで、肝心な時には熟睡モード。
 
先輩と何を放したかも覚えてないありさまだ。
 
何と言う失態、私のバカぁ……。
 
「……はぁ」
 
問題はそれだけじゃないの。
 
HRが終わり、鞄の準備をしているとクラスメイト達から声をかけられる。
 
「綾辻さん、ゴールデンウィークはどこか行くの?」
 
「やっぱり、彼氏とデートとか?仲よさそうだもんねぇ」
 
 
「あんなに優しい年上の彼氏がいるって羨ましいなぁ」
 
クラスメイトから微笑ましい顔をされて会話されて戸惑う。
 
「え?あ、あの……先輩とデートの予定はまだない」
 
「そうなの?デートくらい誘いなよ。せっかく、彼氏がいるんだから」
 
入学してからこれまで話した事がないクラスメイト達。
 
私自身も浮いた存在だと自覚していたくらいだ。
 
それなのに、いきなり、こうも親しげに会話される展開になるなんて。
 
戸惑わない方が無理と言うものだった。
 
「じゃぁね。またゴールデンウィーク明けに。彼氏とのデートの話を聞かせてよ」
 
「私も早く彼氏とか欲しいなぁ。バイバイ、綾辻さん」
 
皆に声を掛けられて、私は挨拶程度に軽く手を挙げることしかできない。
 
「ふふっ。綾辻さんって反応が可愛いよねぇ」
 
「意外と話してみると普通の子だったね。私達、誤解してかも」
 
そんな会話をしながら立ち去っていく女の子達。
 
私はその背を眺めながら大きくため息をついた。
 
「……どうしてこうなったの?」
 
これまで、こんな風に挨拶すらされたことがないのに。
 
あ然とする私、妙に皆が親しげなのには理由がある。
 
昼急終了間際、眠ってしまった私を背負い、先輩がこの教室にやってきた。
 
私は寝ぼけていたらしく、すぐに教室に戻っても寝てしまったらしい。
 
そこで先輩が去り際に皆に言ったそうだ。
 
『綺羅は無愛想で口数も少ないから、このクラスでもきっと浮いた存在なんだろうけど、ホントは可愛いやつなんだよ。皆も普通に接してあげてくれないかな。俺としては友達とか作って欲しいんだよね』
 
『そうなんですか?私達が会話しても全然反応してくれませんし』
 
『猫みたいに気分屋なだけさ。挨拶程度でもいいから、声をかけてあげてくれないかな。綺羅は悪い子じゃない、素直になれないだけなんだ』
 
『分かりました。私達も、綾辻さんのこと、話してみたいと思ってたんです』
 
そんな話があったらしくて、皆が私に声をかけるようになったと言うわけだ。
 
私が周囲に作り続けてきた壁を、あっさりと先輩が壊した。
 
そもそも、背負われてここに来た時点で恥ずかしいのに。
 
私の羞恥心の限界を突破させる行為。
 
「あの人らしいと言えば、そうなのかもしれないけども」
 
平然とそんなことをやってのけただけじゃなく、クラスメイトの私に対しての印象を変えてしまうなんて想定外だ。
 
私が教室を出ると「綺羅」と呼ぶ声に振り向く。
 
「待っていたぞ、綺羅」
 
廊下で私を待っていたのはヒロ先輩だった。
 
その爽やかな笑顔が今は何かムカつく。
 
「……先輩、私の教室で何をしたの?」
 
「ん?あっ、さっそく効果があったのか?どうだ、誰か話かけてきたか?」
 
「いきなり、話しかけられ過ぎてびっくりした。ほとんど話した事ないクラスメイト達に声かけられて、あれこれ言われて戸惑った。全部、先輩のせいだ。どうしてくれるの?」
 
人と接する事が苦手な私にどうしろと言うのか。
 
そもそも、先輩は恋人じゃないのに、彼氏扱いされてたし。
 
否定しても恥ずかしがってるとしか思ってもらえなかった。
 
そんな私を見て、彼は微笑しながら言うんだ。
 
「クラスの子達も、前から綺羅に興味があったらしい。ただ、綺羅って反応が少ないだろ。だから、どう接したらいいか分からなかっただけって感じみたいだ。これから、少しずつ慣れていけばいいさ」
 
「別に慣れなくてもいい」
 
「そう言うなって。些細なことでも、会話をする相手がいるって良い事だぜ」
 
ポンッと軽く私の頭を撫でる。
 
そうされるのは嫌いじゃない。
 
「……先輩ってさ、やっぱり変だね」
 
「そうか?」
 
「その自覚がない所がムカつく」
 
私が拗ねながら、校舎を出て雨の降る空を見上げた。
 

ふり続ける雨粒が地面に水たまりを作っていく。
 
「朝からずっと雨だ……」
 
「夕方になっても雨はやまず、か。明日からは晴れるって言ってたけどな」
 
水たまりを避けながら、傘をさして歩きだす。
 
彼とふたりで一緒の傘で帰ったのはつい先日の事だ。
 
今でもあの恥ずかしさは思い返すだけで何とも言えない気持ちになる。
 
「……うぅ」
 
告白の返答をどう返せばいいのか悩んでると、先輩の方から切りだしてきた。
 
「昨日の告白の答えを聞かせてくれないかな」
 
「……私からも聞きたい事がある。何で、私なの?」
 
「何でって言われてもな。好きになった理由のことか?」
 
だって普通に考えらたら私なんか好きになるはずがない。
 
好きだと言われても信じられない。
 
「そうだな。どこを好きと言われたら……」
 
彼はきっかけについて話し始める。
 
「一言で言うと……抱き心地がよかったから」
 
「この変態め。二度と私に近付くな」
 
あまりにもストレートすぎるのにドン引きした。
 
いきなり、何を言い出すのかと思えば。
 
欲望にまみれてると言うか、人の身体目的だったなんて。
 
「ま、待て、誤解だ。変な意味じゃない。ほら、お前が木から降りられなくなった、最初の時に抱きしめたじゃないか。綺羅を抱きとめた時に、女の子の身体って柔らかいなぁと改めて実感したわけだが」
 
「……変態にもほどがあるわ。あの時、私の身体に欲情してたの?」
 
思わぬ変態アピールに私は先輩から離れる。
 
「だから、違うって。綺羅の身体を抱きしめた時、この子をもっと抱きしめたいって思った。そう考えたら、俺って綺羅に一目ぼれしてたのかもな」
 
「……それ、嬉しくない」
 
変態的な理由で好きになられても困るだけ。
 
もっと具体的な何かを期待してたのに。
 
抱き心地って言われて嬉しいと思うほど私は変わっていない。
 
「あとは、綺羅の笑った顔を見てみたかったから」
 
「……笑った顔?」
 
「ほら、綺羅っていつもむすってしてるじゃん。笑顔を見たいって思ってた。綺羅が笑ってくれたら俺はもっと好きになると思う」
 
「……っ……」
 
そんな言い方はずるいと思う。
 
私は確かに笑う事が少ないけども、笑えないわけじゃない。
 
それを見たいと言ってくれる先輩の気持ちが少し心地よくて。
 
「……ん?歩いてる間に雨がやんだな」
 
いつのまにか雨がやんでいた。
 
ふたりして、傘を閉じて空を見上げる。
 
雨がやんで空には雲の隙間から青空がのぞいている。
 
「……先輩、告白の答えだけど。先輩と付き合ってもいいよ」
 
「え?ホントに?」
 
「私みたいなのに興味があるなんて先輩くらいだし。それに」
 
「それに?」
 
私の中にある彼を思う気持ち。
 
ほんの少しだけ素直になりたい時もある。
 
「私以外の女の子が先輩の隣にいるのを見たくない」
 
「綺羅……そういう事を言うと抱きしめたくなるだろ」
 
「……あっ」
 
私は先輩に抱きしめられていた。
 
あがったばかりの雨の匂い。
 
抱きしめられた私はただそのまま身をゆだねる。
 
「やっぱり、綺羅の身体は抱き心地が良いな」
 
先輩に抱きしめられているのも嫌じゃない。
 
私はもう少しだけ素直になって自分の気持ちを口にした。
 
「……好きだよ、先輩」
 
「やっと、素直になってくれたな。綺羅のこと、大事にするから」
 
私とヒロ先輩との恋人関係。
 
素直じゃない私にとっての初めての恋が始まる――。
 
【 To be continued 】



nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:恋愛・結婚

俺の彼女は猫系女子 【第11章:決戦と運命の日◆岡部弘樹】 [恋愛小説]




運命の日、来たる。
 
昨日はぐっすりと熟睡した事もあり、快眠で目が覚めた。
 
綺羅に告白したらすっきりしたからな。
 
答えが気になり、眠れないと思ったが、ベッドの布団に寝転がったら普通に眠れた。
 
……俺は繊細だと思っていたが案外、図太い性格なのかもしれない。
 
「おはよー、姉ちゃん」
 
「おはよう。今日は弘樹にとっての決戦の日やなぁ」
 
「何と戦うのだ、俺は……。大げさすぎる」
 
勝手に人の運命の日を、決戦の日にしないでくれ。
 
綺羅の告白の答えをもらう、それは大事な日に違いないけども。
 
「良い答えをもらえたらええな。不安にならへんの?」
 
「何か告白したら、妙にすっきりしてさ。不安もあるけど、前向きな気持ちだよ」
 
ダメだったら、とか考えたりはしない。
 
例え、ダメでも綺羅を諦めるつもりはない。
 
もっと関係を深められるようにしていくだけだ。
 
「アンタにしてはずいぶんとポジティブやな。いつもの弘樹と違うわ」
 
「もうヘタレ扱いさせないぜ」
 
「それはまた別の話やん?ヘタレはヘタレ、変わらへんよ」
 
「何でだ!?」
 
俺は姉なりの激励を受けながら、朝ごはんを食べる。
 
「今日の天気は……」
 
いつものようにお気に入りのお姉さんのお天気予報を見る。
 
テレビに映る美人なお姉さんは今日も元気よく天気予報を伝えてくれる。
 
「今日のお天気はあいにくの大雨。この雨は朝から降り続き、夜まで続くでしょう。ですが、明日からのゴールデンウィークは晴天にめぐまれて……」
 
「大雨やって。学校に行くのが億劫やわぁ」
 
「……俺もちょっと最初からつまずいた感がある」
 
綺羅と会うのは大抵、いつも屋上だった。
 
今日、告白の答えをもらうのも、自然の流れで昼休憩の屋上だと思っていた。
 
「これは誤算だ。これじゃ、呼び出す以外に会う機会がないじゃないか」
 
昨日の告白で綺羅が呼び出しに応じてくれるかどうか。
 
この展開、少しばかり俺にとって緊張するものになるかもしれない。
 

 
「教科書の56ページ。枕草子、清少納言についてだが……」
 
国語の授業中も俺は上の空でずっと綺羅の事ばかり考えていた。
 
どうやって綺羅を呼びだすかな。
 
メールで待ち合わせるか?
 
昨日の告白にネガティブな反応だった場合、会ってくれないかもしれない。
 
そうなると、俺は綺羅と会えないままゴールデンウィークを過ごすわけで。
 
「これはまずい事になりそうな予感」
 
「……何がまずそうなんだ、岡部?ちゃんと授業を聞いてたか?」
 
気づいたら先生が真横にいて俺を睨んでいた。
 
「す、すみません、ちゃんと聞きます」
 
反省、今は授業に集中することにしよう。
 
そんな事もあり、昼休憩になっても俺はまだ綺羅に会えずにいた。
 
雨の日は教室で一人さびしく昼食を食べる。
 
弁当を食べ終わり、俺はある決断をした。
 
「……考えて立って仕方がない。ここは勇気を出すしかないか」
 
虎穴に入らずんば虎児を得ず。
 
綺羅の答えは決まってるはずだ。
 
イエスかノーか、それを聞かなければいけない。
 
勇気を出して綺羅にメールを送ろうとしたのだが……。
 
「おや?あれ?もしや……」
 
ポケットを探るが携帯電話の感触がない。
 
記憶をさかのぼり、俺はリビングに携帯を忘れた事を思い出した。
 
「しまった、トイレに行く時に机に置いたままだったかも」
 
連絡手段を失い、俺は意気消沈する。
 
「メールが出せない」
 
こうなると、手段としては直接会いに行くしかないわけで。
 
「……はぁ」
 
メールで呼び出すよりも、直接呼びに行く方が勇気がいります。
 
「しょうがないか。覚悟、決めるしかない」
 
俺は深呼吸をひとつしてから一年の教室へ行くことにした。
 
綺羅のクラスはすぐに見つかり、俺は教室の中を覗き込む。
 
まだ新入生らしい雰囲気を持つ子達の中で見慣れた横顔を発見。
 
近くにいた子に綺羅を呼んでもらうように頼む。
 
「綾辻さんですか?すぐに呼んできますね」
 
「悪いね、頼むよ」
 
綺羅は雨の打ちつける窓辺を一人で眺めてるだけ。
 
クラスに馴染めてるとは到底思えない。
 
「綾辻さん。男の先輩が呼んでるよ。ほら、廊下の方に」
 
「え?」
 

彼女がこちらを振り向くと同時に、クラス全員がこちらを向く。
 
……そんなに一斉にこちらを見ないで欲しい。
 
照れると言うか、むしろ、怖いです。
 
それだけ綺羅に興味があるのだろうか?
 
「あっ……」
 
綺羅が俺に気付いたので軽く手を挙げて「よぅ」と挨拶する。
 
緊張してたが彼女の顔を見たら、何か普通のテンションになった。
 
考えても仕方がない、彼女を好きな気持ちには勝てないのだから。
 
「ちょっと話したい事があるんだ。いいか?」
 
「……うん」
 
そう素直に頷いて席を立つと、彼女は廊下へと出てくる。
 
教室ではクラスメイト達がざわめいていた。
 
「今の人って綾辻さんの知り合い?仲のいい先輩とかいたんだ?」
 
「結構、カッコいい先輩だったよね?もしかして、彼氏とか?」
 
「えー。普段、何にも喋らない子なのに?彼氏とかいるんだぁ、めっちゃ意外かも」
 
などと話してるのが聞こえたが、隣の綺羅は気にする様子はないようだ。
 
クラスで浮いた存在ってのはホントらしい。
 
廊下を歩きながら俺は綺羅にまず謝る。
 
「突然、教室を訪ねて悪かった。携帯で呼び出すつもりが家に忘れて来てさ。ほら、今日は雨だったからいつもみたいに屋上でも会えないからな」
 
「……うん」
 
「人気もなくて話せる場所って言えば……屋上階段でもいいか?」
 
「……うん」
 
雨の降る屋上に出るのではなく、そこまで行く途中の階段の踊り場。
 
誰もいない静かな校舎の一角。
 
話をするだけなら生徒ホールでもいいんだが、人に聞かれたくないのでここしかない。
 
俺達は階段に腰掛けて話をすることにした。
 
「話ってのは昨日の告白の件についてだ。一晩考えてくれたか?」
 
「……」
 
「綺羅。告白の答えを聞かせてもらえないか?」
 
俺は綺羅の方をしっかりと見て、返答を求めた。
 
さぁ、答えはどっちだ!?
 
「……」
 
「あの、綺羅。さすがに何か反応してくれ。無反応はさすがに困る」
 
ダメならダメと言ってくれればいい。
 
告白した時点でフラれる覚悟もできてるのだから。
 
綺羅の反応を確かめようとして、俺は「え?」と驚いてしまった。
 
「……すぅ」
 
俺の前で寝息を立てる綺羅。
 
気がつけば瞳を閉じて眠りについてる彼女がいた。
 
「お、おーい、綺羅?ここで寝るのはないだろう」
 
軽くゆするも反応が鈍い。
 
ダメだ、この感じはもう眠りに落ちてしまってる。
 
俺が会いに行った時から妙に反応が鈍いと思ってたら、眠たかっただけか。
 
そうだよな、普段の彼女なら「恥ずかしいから教室に来るな~」とか言いそうだし。
 
「ったく、人の気も知らないで。無防備な寝顔を見せてくれちゃって」
 
俺は肩をがっくりと落としてしょげる。
 
こっちは勇気を出して呼び出したっていうのに。
 
このタイミングでお昼寝とは、マイペースな彼女らしい。
 
「疲れてたのかな。可愛い寝顔しやがって……悪戯したくなるぜ」
 
彼女の寝顔を見るのは二度目だ。
 
一度目の時は綺羅の事が好きだって自覚した日のこと。
 
だから、俺は彼女の寝てる時の顔は結構好きだったりする。
 
瞼を閉じて眠りについてる綺羅。
 
普段、他人に対して警戒心の強い彼女が俺の前だけにみせてくれる寝顔。
 
自分で思ってる以上に彼女に信頼されてるんだろうか。
 
「俺は……綺羅の事が好きだ。大好きなんだ」
 
言葉にしてみると好きって言葉は本当に想いがこもるものだと思う。
 
俺の人生でこんな風にちゃんと人を愛せたのは初めてかもな。
 
「なぁ、綺羅……俺の恋人になってくれよ」
 
寝てる彼女の頬を指先で撫でながら俺はそう呟く。
 
「んっ……」
 
起きる気配がないので、しばらくの間、ずっと寝顔を見つめ続けていた。
 
この恋だけは、モノにしたいんだ……。
 
結局、綺羅は目が覚めたのは昼休憩が終わった頃。
 
まだ寝ぼけていたので教室まで送り届けた。
 
告白の答えは放課後に持ち越しとなり、俺は自分の教室に戻った。
 
【 To be continued 】


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:恋愛・結婚
前の10件 | -

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。

×

この広告は1年以上新しい記事の更新がないブログに表示されております。